みさ緒を送り出してから三日。平常心を言い聞かせ、普通に過ごせているつもりでは居るものの、厘の器量の良い顔を見上げるといつも、大槌が胸の奥を強く叩いた。


「違う違う……あれはただの儀式だって、」


首を振りながら言い聞かせる。冷えた指で頬の熱を吸う。———この平常心を保つルーティンこそ、儀式と呼ぶべきなのかもしれない。


「おい、もう出る時間だろ」

「はっ、はぁい……!」


襖の向こうから聴こえる声に、肩が跳ねる。


意識しすぎないようにしなくちゃ……厘は至って普通なんだから。


再び心の内で唱えながら胸元でタイを縛り、玄関の戸を開く。彼と出会った頃の蒸し暑さは大分和らいで、吹き込む風が心地よかった。


「鍵は」

「持ちましたっ」

「じゃあ行くぞ」

「うん」


そういえば、少し銀杏と金木犀の匂いも含んでいる。母が好きだった、湿り気のない香り。


———『嫌う人も多いけど、お母さんは秋を感じられて幸せな気分になるの。一番好きな季節だから』


岬は思い返しながら、鎖骨の窪みに映える形見のペンダントを握りしめる。その言葉を簡単に受け止めきれないのは、きっと、母と最後に過ごした季節の終わりを感じているからかもしれない。


「そういえば、その首飾り……」


厘は首もとに視線を注ぐ。


「うん……お母さんからもらったの。きっと何かの役に立つ、って」

「そうか」