『岬は悪くないでしょう?まぁ、鈍くさいところはあるけれど』


あれ、私……何か言われてる?鈍くさいって、私の事かな。

岬は普段より重たい身体を起こしながら、首をかしげる。


「おい、無理に起こすな」

「大丈夫だよ。最後くらい、私もしっかり見送りたいし」


厘は盛大にため息をついた。


『あ。でも私、黄泉へ行く予定はないからね。呼ばれているけど、まだまだこの世には未練があるし』

「迷惑なことだ」

『なによ、いいでしょ別に。生きてる間ずぅっと孤独だったんだから』


孤独———聞いた岬は、厘を模して自分の額に触れる。姿形は見えないけれど、不思議と彼女(なか)の体温と通じ合っているように感じた。


『岬……?』


証拠に、みさ緒の声が少し震えている。ちゃんと伝わっている、と信じたい。岬は笑みを零した。


「私もね。ある日突然居場所を失って、孤独になって……ぽっかり穴が開いたみたいで、ずっと虚しかった」

『それは、母親のこと?』

「え……知ってたんだ」


ンッンンッ。正面から聞こえる咳払い。厘がこちらを睨み見ていた。みさ緒を見ていた。


『……うん、まぁ……同じ霊魂だしね』

「そっか」

『それで?虚しかった、ってことは、今は違うの?』


まだ睨みを利かせている厘を見据えながら、岬は小さく頷いた。