『ほら、すぐあなたを気に掛けるでしょう?ここぞ、ってときを狙ってるのよ、絶対』
眉を顰めて怪しむ厘に、揶揄を含んで笑うみさ緒。慌てふためく岬———三者三様の日常がしばらく続いていた。
同じくして、ここ最近続いているアンラッキーも収まる兆しは無かったけれど、
「本当、お前は危なっかしい」
「ごめん……ありがとう、厘」
『わざわざ抱えなくてもいいでしょう?やっぱりあなた、むっつりね』
「ああ?」
どこに居ても、厘が助けてくれた。細身ながらも骨ばった腕と大きな手のぬくもりに、胸が強く締まるのを自覚していた。原因不明の熱に絆されながら、みさ緒と厘の掛け合いを聞いていると、笑みが溢れた。
みさ緒が憑いている体にすっかり馴染んで、すっかり、忘れていた。
「岬、今夜は満月だ」
「満月……」
みさ緒との別れが、近づいているということ———そして、自分の精気がすり減っていることに気づかない位、過ごす日々は幸せに満ちていた。
十月半ば、月齢は十五。その夜、岬はふらつく身体を居間に横たえ、傍に厘の気配を感じていた。
「みさ緒。何か最後に思い残すことはないか」
低く、それでいて艶のある声。
少しぼやけた視界の中で、厘は岬の額に五指を添えた。触れることのできないみさ緒に当てられた体温だと、すぐに分かった。
……やっぱり、厘は優しい。
『ないわ。結局最後まで居座っちゃったしね』
「ああ……本当に厄介だった、お前らは」