「あれだ……年頃の娘というのは、行為に敏感なのだろう。だから、一応聞いておこうと思っただけだ」


視線だけでなく顔を背けた厘。“行為” に重きを置かれた台詞に、岬はいよいよ紅潮した。


せっかく振り払ったばかりなのに、また蘇ってしまう。無自覚だろうが、厘はとてつもなく意地悪だ。


「どちらがいい」


早く言え、と言わんばかり。流し目で捉えられる視線に、心臓がドキリと跳ねる。岬はしばらく逡巡し、ようやく唇を割った。


「覚めているとき……の方が、いいかな」

「そうか」


記憶があやふやなうちにキスを済まされるよりも、自覚があった方がいい。


———『行為に敏感なのだろう』


その言葉に煽られ、働かせてしまった思考に(本当にこれで良かったのかな……)と今更過る。タイミングを意識せざるを得なくなり、彼の唇に視線がいくのを抑えられなかった。


どうせなら「この日にする」と宣言してくれた方が、心の準備もできて幾分か楽なのに。……でも、日が近づくにつれて緊張感が増してしまうのも確か。それに、精気を送り込むべきタイミングを、厘は図っていたりするのだろうか。




それから数日間、岬は心の内で出口の見えない思考を巡らせていた。薄く艶やかな彼の唇を垣間見ながら、巡らせた。



『気を付けなさい、岬。あいつ絶対にむっつりよ』

「むっ……!?」


心の内で留めていたはずなのに、みさ緒からの警告も増えていた。


「どうした岬」

「う、ううん!なんでもない……」