「ふぁー……」


翌朝、岬は大きな欠伸を手で覆った。


月に一度訪れる、とてつもない眠気と記憶の喪失。例によって朝日が疎ましく、昨晩の記憶はすっぽり抜けていた。


「なんだ、眠いのか」


珍しく羽織を纏っていない厘に、岬はコクリと頷く。彼は、思っていたよりも線が細かった。この体で自分を軽々抱えられるのか、と一瞬見紛った。


「すごく眠くて……あと昨日の夜のこと、また(・・)思い出せないの」


せっかくの朝ご飯。しかし、食べる体力が空腹に追いつかない。月経はまだ先のはずだけど……、と視線を落としながら、岬は出汁巻き玉子を頬張った。


「昨日か。お前は帰ってすぐに眠っていたぞ。夕飯も食べずにな」


厘は涼しげに言った。


「そっか……」

「それより、頬に違和感はないか?」

「え……頬?」

「……いや、なんでもない」


どうしたのだろう。

不自然に視線を逸らす厘に首を傾げる。そんな彼の横顔を見るのさえ、懐かしく感じられた。


「それと、ものは相談なんだが」


しかし、瞬時に距離を詰めてくる様子は、最近も味わったような気がしてくる。言葉では説明がつかない感覚だった。


「相談?」


岬はもう一度出そうになった欠伸を堪え、復唱した。


「お前が摂り込む精気のことだ」

「あ……え、うん」


それって、確か厘と……。

岬は、脳裏に浮かんだ情景を振り払った。


「恐らくまた、時を見て口づけをする必要がある。それで……お前は目が覚めている時と覚めていない時、どちらがいい」

「え……」