◇
「ふぁー……」
翌朝、岬は大きな欠伸を手で覆った。
月に一度訪れる、とてつもない眠気と記憶の喪失。例によって朝日が疎ましく、昨晩の記憶はすっぽり抜けていた。
「なんだ、眠いのか」
珍しく羽織を纏っていない厘に、岬はコクリと頷く。彼は、思っていたよりも線が細かった。この体で自分を軽々抱えられるのか、と一瞬見紛った。
「すごく眠くて……あと昨日の夜のこと、また思い出せないの」
せっかくの朝ご飯。しかし、食べる体力が空腹に追いつかない。月経はまだ先のはずだけど……、と視線を落としながら、岬は出汁巻き玉子を頬張った。
「昨日か。お前は帰ってすぐに眠っていたぞ。夕飯も食べずにな」
厘は涼しげに言った。
「そっか……」
「それより、頬に違和感はないか?」
「え……頬?」
「……いや、なんでもない」
どうしたのだろう。
不自然に視線を逸らす厘に首を傾げる。そんな彼の横顔を見るのさえ、懐かしく感じられた。
「それと、ものは相談なんだが」
しかし、瞬時に距離を詰めてくる様子は、最近も味わったような気がしてくる。言葉では説明がつかない感覚だった。
「相談?」
岬はもう一度出そうになった欠伸を堪え、復唱した。
「お前が摂り込む精気のことだ」
「あ……え、うん」
それって、確か厘と……。
岬は、脳裏に浮かんだ情景を振り払った。
「恐らくまた、時を見て口づけをする必要がある。それで……お前は目が覚めている時と覚めていない時、どちらがいい」
「え……」