「血を恨んでいるわけか」
「恨むってほどではないけれど。それなりに捻くれたし、それなりに孤独だったわ」
「……おい、岬の体で胡坐をかくな」
「何よ、話聞きなさいよ」
ぶつぶつと文句を垂れながら、みさ緒は外側に足を折り直す。口を尖らせる仕草も新鮮で、案外悪くない、と疲れきった脳が戯れ言を放った。
皮切りに、話を戻した。
散々「明日には出ろ」と促すものの、状況変わらず堂々巡り。自ら「出る」気は毛頭ないようだ。
お前に人間が寄らなかったのは境遇だけでなく、その頑固さにも要因はあるんじゃないのか? そう吐きたくなるも、厘は黙っていた。
「いいじゃない。どんな災いが訪れようと、あなたが岬を守ってあげれば」
いいように言わせておけば、他人事のように放たれる始末。
労力は “守る” だけに注がれる訳ではないことを、この愚者は知り得ないのだろう。
いま憑依されている岬の身体は、確実に精気をすり減らし続けている。つまり、精気を送り込む力も蓄えておかなければならない。……しかしまぁ、それでも───
「当たり前だ。……守り抜いてやる。どんな災いからもな」
一度失い掛けた命。すべて彼女に捧げると覚悟を決めた妖花に、やり得ない事などあってたまるか。
厘は口角を持ち上げ、不敵にほほ笑んだ。
「そう?じゃあ頑張って」
双方の瞳が火花を散らしたその夜は、道を照らす月もなく、静かに過ぎていく。そして暗闇のなか、厘は逡巡していた。
岬に精気を施す、頃合いについて。