「……俺に負担を掛けていることにも気づいているだろう。罪悪感のひとつも無いのか」

「当たり前でしょう。そもそも、どうしてあなた、そんなに必死で守るのよ」


言われるほど必死か、俺は。

自分の行動を顧みながら、額を抱えた。毎日毎日、健気に小娘を見守るあやかしの姿は、さぞ滑稽なのだろう。


「使命だからだ。……恩人から『守れ』と託された」

「恩人?誰よそれ」

「お前、じゃない……岬の母親だ」


花籠宇美。まだ冷たい土に埋もれていた頃、瘴気に毒された本体を摘んで救ったのが、宇美だった。


「へぇー。その母親は何?どこにいるのよ」

「死んだ。もういない」

「……そう」


みさ緒は視線を落とす。しかし、哀れみや同情を表した面には見えなかった。


「随分と、良い母親だったみたいね」


むしろ、冷笑すら垣間見える。彼女の皮肉めいた口調に、厘は眉を顰めた。


「お前にも母親くらい居ただろう。黒闇天の血を引いた、同じ境遇の」

「いるわ。それが私の、人生の汚点だったワケだけど」

「汚点?」

「分かるでしょう。災いをもたらす神の末裔……傍に寄ってくる人間など一人もいなかったわ」


ましてやこの容姿、最悪でしょう?———そう加えたみさ緒は、「あぁ、今はべっぴんだったわ」と頬に手を添え訂正した。