「お前、岬のことを気に入っているな」
「ええ。それがどうしたの?」
座椅子の背に身体を凭れたまま、彼女は事もなげに首を傾げた。
「それならば、」
グイ———。
厘は頬を掴み顔を持ち上げ、半ば強制的に視線を捉える。やはり、瞳の色もあいつとは違う。厘はほくそ笑み、みさ緒は目を見張った。
「この夜が明けたら、すぐに岬から出ろ」
厘は凄み、そして今宵までの一週間の記憶を辿る。
端的に言うならば、散々だ。
岬が指にケガを負い、事故を危機一髪で免れたあの日から続けて、同じような状況が積み重なった。
翌日には予報にない局地的豪雨に見舞われ、翌々日には図書室の棚が岬に倒れかかった。事象を並べれば、まったく片手には収まらない惨状。間接的、あるいは直接的に厘が手を施さなければ、命に係わることも少なくなかった。
単に運が悪いのではない。まして、人為的なものでもない———すべては、みさ緒が原因だった。
「なっ、ぅ、なんでよ……私にはまだ、出るまでの猶予があるはずよ」
「岬を危険にさらしてまで、中に居たいってことか」
ギュゥ。厘はより強く頬を掴んだ。尖った爪を食い込ませない配慮は、奥深くで眠っている岬へのもの。みさ緒本体に対してであれば、拷問に近しい所業はいくらでも思い付いた。
「……だって、こんなの二度とない機会かもしれないじゃない」
「つまり、自分の快楽が優先だと」