新月の夜。日が沈んでから、すでに二時間以上が経過している最中、厘は腕組みながら無言で岬の身体と向かい合う。


昼白色の電灯が照らす表情は、岬であって岬ではない———やはり、と眉根を押さえ、正面を見据えた。


「何よ、黙りこくって……言いたいことがあるなら言えばいいじゃない」


岬は眉間に皺を刻まないし、口調もこれほど刺々しくはない。人が変わったよう、と言えば易し。しかし易くない要因は岬の体質にあり、現にいま、目の前の体はみさ緒に乗っ取られている状態だった。


半分憑依。

岬に刷り込んだ単語を思い返しながら、厘はもう一つの憑依形態を浮かべる。岬が自我を保つことのできる “半分” に対し、自我が保てず、体そのものを乗っ取られてしまう形態———

“完全憑依” と厘は呼んでいた。


「ああ。見た目は同じでも、随分違うものだと感心していたんだよ」

「どういう意味よ」

「岬は俺を睨んだりしない」

「……ああ、そう」


ハァ、と視線を逸らすみさ緒。正確に言えば、岬の姿を纏ったみさ緒。


新鮮、と言うには楽観的。どうにも調子が狂う。(表情と口調、声色というものは、中身でこうも変わるものなのか……)建前ではなく、厘は放った通り感心していた。


「それで、どうだ?」

「なにがよ」

「久しぶりに生身の体を操れる今の状態……(うつつ)に触れた感想は」


みさ緒は怪しげな笑みを零し「そうね」と切り出した。