「厘?」

「……いいから行ってこい。事故の後処理は俺が引き受けるから」

「う、うん……行ってきます。ありがとう、厘」


後処理ってなんだろう。そう言いたげに手を振る少女を見送った後、厘は再び鈴を鳴らし、錆びた音色を響かせた。———その場から、岬の残像を消し去るために。



「目撃者にでもされたら、少々手間だからな」


ヒュン———ッ。


完全に気配を殺したあと、厘は指に挟んだ楕円の葉を振り下ろす。葉は肥大化し、厘の身体を持ち上げるように宙へ舞った。


鈴蘭の葉車(はぐるま)。単位でいえばおよそ二百キロまでの物体を持ち上げることが可能で、上下左右の動きが自在な車。とはいえ、厘の妖力が必須であるため、スピードは自ずとその裁量に委ねられる。

人目につけば “世間体” に波を立てることはさすがに理解していたため、厘は透過を加えた。消費する妖力は膨大だが、岬の命がかかっているとなれば、惜しむ余地なし。


「窮屈な世だな……ここは」


小さく呟きながら校舎を目指し、陽光に目を眩ませる。

……新月まで、あと六日。厘は月齢を数えながら、みさ緒の表情を思い返した。


 ———『何を見透かしたつもり』


円らな瞳に、分厚い唇。お世辞にも器量が良いとは言えない容姿。憑かれた途端、岬にふりかかる災い。この(・・)推測が正しければ、今すぐにでも追い出すべきだろう。


「妙なものに憑かれたものだな……岬」


たとえお前が、心を許していたとしても。