ブォンッ———!!


厘を睨み見ていたはずの霊の瞳は、悔恨の色を浮かべる。彼女の目には、獣のごとく猛進してくる鉄の塊が映っていた。


「クソ……」


なんでこっちに突っ込んで来やがる。


「ひゃ……!?」


厘は即座に岬を抱える。猪突猛進、鉄の塊、いわゆる黒のセダンに触れる寸前、上に向かって飛び退いた。



ガシャンッ———!!


「「キャァーッ!?」」


どこからともなく響く悲鳴。気が付くのが二秒遅ければ、歩道に乗りあげた鉄の塊と樹木の間ですり潰されていたことだろう。厘は、すっぽりと腕に収まる身体を見下ろした。


「おい、生きてるか?」

「は……はい、なんとか……」


彼女は、車の上に舞う銀杏の葉をじっと見つめていた。恐らく、何が起こっていたのか理解できずにいるのだろう。気の動転を体現したような目の泳ぎに、厘は息を吐いた。


「こんなことを言うのはなんだが、進んだ先が岬の所で良かったのかもしれない」

「え……?」

「俺が守ることができるのは、お前だけだからな」


辺りが騒然とする中で、岬は静かに頬を赤らめる。

人間という生き物は、この程度の外気で体温が上昇するのか。本当に、手が焼ける。……それよりも。厘は小さく息をついて、奥に潜む霊魂の、円らな瞳を鋭く捉えた。


「お前、何か訳知り顔だな。さっきから」

『……そっちこそ、何を見透かしたつもり』