目を開いた時には岬と後ろに憑くみさ緒以外、目配せ一つくれなくなっていた。岬を除いて術を掛けたつもりだったが、やはり、みさ緒には効かないらしい。


「どうだ。少しはましになっただろう」

「今、厘が何かしたの?」

「簡単に言えば、まじないのようなものだ。お前には掛けていないから、安心しておけ」

『へぇ~、器用だねぇ。妖怪さん』

「妖怪ではない。妖花だ」

『同じことでしょう?全く、これだから人外は嫌なのよ』

「お前だって人外だろう」

『失礼ね。私のもとは人間、あなたとは違うから。昨日は岬と、人間同士の熱~いお話しちゃったもの。ねぇ?』

「へっ!? あ、うん……熱い、といえば熱いかも……」


他愛のないやりとり。岬が語尾を窄めつつ、再び頬を染めていることには気付けなかったのは、古びた音色の鈴を「替えどきか……」と見つめていたからで———彼女の背後に迫る影にも同様に、気付くことが出来ないでいた。



ブンッ。


まだ青い銀杏の並木道、数台の車が行き来する。直線上にはそろそろ、校門が窺える頃合いだった。


登校はこれで終い、校内での様子は“上”から見ておくとしよう。岬はともかく、みさ緒の甲高い声から解放されることは喜ばしい、と小さく息をついた。瞬間だった。


『岬!』


鈴に気を取られ、油断していた。みさ緒が尖った声を張り上げてようやく、厘はその影の正体に気がついた。