「おい。しっかり前を見て歩け」

「う、うん……」


年季の入ったアパートを出て、左に進む通学路。セーラー服を纏った岬は、厘の横できょろきょろと周りの目を気にしていた。


……今朝ケガをしたばかりだというのに、まったく危機感が無い。厘は彼女の指を垣間見る。あの程度、妖の身体であれば血も流さず、すぐ傷口も塞がるというのに。……だから余計に、危ういんだ。


「ねぇ、厘」

「なんだ」


声までが細くか弱い。厘は小柄で華奢な体を横目に捉えた。


「その恰好……暑くないの?」


岬は恐る恐るこちらを見上げる。同時に、彼女の細い髪はサラリとその肩を撫でた。


「特に暑くはないが」

「そっか……もし水とか必要だったら、すぐ言ってね。私持ってきたから」

「ああ」

「それと、ね」

「ん?」


首を捻ってみるが、しばらく返答がない。照りつける陽光と妙な間に、厘は軽く眉根を狭めた。


「岬?」


こちらに目を与えず、再び視線を散乱させる岬。同じように周りを見やると、岬と同年代位の少年少女の姿がと増え始めていた。

なんだ……全員同じような恰好をして。


『馬鹿ね、分からないの?』

「……あ?」


鼓膜を突き抜ける卑しい声は、岬のものではない。彼女にべったりと張り憑く(・・・・)、みさ緒の声だった。黒い裾長の被服に、金色の腕輪を身に着けたその少女を、厘は睨みつけた。


『気を遣って言えないだけよ、岬は』

「み、みさ緒……っ」

「なんだ、言ってみろ」