「もう大丈夫、だよ。ありがとう、厘」
「ああ……出血が多いだけで、たぶん傷口は深くない。ちょっと待っていろ」
厘は岬の指に、持ち出した絆創膏を巻きつける。この白い肌も、細い身体も、想像以上に危うい———正直言って、持て余す。
「ありがとう。やっぱり厘は、器用だね」
正面で細まる満月型の黒目。窓越しの朝日に照らされる薄紅色の頬。糸のように細長い、母親譲りの黒髪。
……どうして託したんだよ、宇美。俺に、この娘を。
「厘?」
「……悪い。なんでもない」
雑念を払い、視線を背けた。どうして、と問う前に片付けなければいけないことがある。
「岬、今日は俺が支度するから、他の準備をしていろ。もう指は平気か?」
「うん、平気。ありがとう」
「それと、登下校は俺もついて行く。そのつもりでいるように」
「……え?」
気の抜けた声。厘はそんな彼女の額を突いて「いいから早く準備しろ」と促し、傍らで思い伏せた。
片付けるべきこと———まずはこの嫌な予感から岬を守る手を講じること、そして───
「みさ緒も起こしておけ。まだお前の中で眠っているらしい」
「う、うん……」
棲みつく霊魂の正体を、探ること。