「何が心外だ。岬の精気を吸うと分かって憑いているのだから、等しく罪だろうが」

『うっ……何よ、この分からず屋……!』


中の声が、徐々にヒートアップしていく。その甲高い声は容赦なく、内側から額にトゲを刺す。


「黙れネズミ」

『ネズミ!?何それ、どういう意味!?』


厘の冷笑にも、みさ緒の叫びにも、岬には太刀打ちする気概はなかった。友人一人、まともに出来たことが無い小心者に、仲介役が務まるはずもなかった。


「とりあえず、だ。岬」

「……はっ、はい」


中の喚き声を収めないまま、厘は続けるらしい。


「憑依にも種類がある。今の状態は、半分憑依ってやつだ」


そして飄々と紡がれた馴染の無い単語に、岬は「半分憑依……」とオウムを返した。


「あぁ。憑依はされているが自我が保てている状態のことを、俺は呼んでいる。中に棲みつく霊魂と会話ができる事も、半分憑依の特徴だ」


種類、と言われても、岬はその “ 半分憑依 ” 以外に思い当たる節はなかった。


憑依で他に思い当たる事といえば、この世のものではない何か、見えない何かと話す姿を恐れる、周囲の目だけ。それでも岬は、中から響く声には必ず耳を傾けた。彼が呼ぶ、半分憑依の時には必ず———


「じゃあ、他の憑依の種類って、」

『岬。そんな事どうでもいいから、私と一緒に話しましょうよ。ずっと待ってたんだから』


遮ったのはみさ緒だった。