告げられた刹那、生温かい雫は頬を伝い、彼のシャツに痕を残す。そんな些細な交わりにさえ、心臓は高鳴りを覚えた。
「私も大好き……大好きです、厘」
厘よりもずるいのは、私の方だ。
岬は背に手を回しながら顧みる。少しは強くなることが出来たと思っていたけれど、恋愛においては初心の同然。一緒に居られるだけでいい、と唱え続けていた建前は、この場で崩れ去った。
今もきっと、母がどこかで見守ってくれているのだろうか。
初めて出来た、母ではない居場所。心から愛を誓える、大切な人。もう、生きる意味がないなんて思わない。きっと、厘が傍にいるのなら。
「ところで岬。あのとき、どうやって俺に精気を及ぼしたんだ?」
うっ、と条件反射に肩が跳ね、恐る恐る彼を見上げる。しかし疑問はあってないようなもの。悪戯を仕掛けた厘の唇は、やんわりと弧を描いた。
「わ、分かってるくせに……厘のばか」
「へぇ……お前に罵られるのなら、悪くない」
「ひゃっ……!?」
喉を鳴らした彼に、岬は耳を甘噛みされる。同時に後ろ首へと回された手は、蒸気した体の熱を吸った。あまりにも、刺激が強い。
「悪いが、これから容赦はしないぞ」
「う、」
どうやら、放たれる以上に彼の辛抱は底を尽きていたらしい。悟ったのは、もう一度唇を重ねられた直後。摂り込むのは、精気でも香りでもない。ただ愛を確かめ合うだけの、甘美な口づけ。
「俺と共に、生きてくれ」
「はい」
たとえ、呪いが体を蝕もうとも。いつか、絶望に苛まれても。やがて、障害が現れようとも———今度は私が、手を引いてみせるから。
だって、生きていきたい。そうきっと、あなたとなら。
End.