「これで分かるだろう」
しかし、当然のように言われても、思い当たる節がない。岬は呆けたまま、「やれやれ」と息を吐く厘を見上げた。未だ、思考回路はふやけたままだ。
「ジレンマだと思った」
「……?」
「お前の扉が閉じ、平和な日常にも文句はない。……が。キスを交わす口実も悉く、消え失せてしまったからな」
言いながら、ばつが悪そうに視線を逸らす厘。同時に、意味を理解した岬はさらに頬を紅潮させた。つまり———、と脈が荒いだ。
「厘は……私のこと、好き……ですか」
期待を込めて、横目を配った彼を見上げる。
「……何を言う」
「え……あ、ごめ、」
どうしよう、違った。ごめんなさい。
綴ろうとした言葉は、彼の腕の中で易々呑まれる。普段より少し高い体温のなか、岬は身体を強く締め付けられる。首筋に及んだ彼の吐息が熱く、おかげで血管が破裂しそうだ。
「いつまで我慢したと思っている」
「え……?」
「今日、お前が帰ってくるまでも待てないほどに……もう、限界だ」
——— “愛している。この世に生ける、何よりも”