連れられたのは、人通りの少ない廊下に並んだ進路資料室。まるで最初から行き先は決まっていたかのような素振りで、庵はなんの躊躇いもなく扉を開いた。


まさか、進路の相談とか———?


「どうしたの?庵」


赤の背表紙が陳列する棚。図書室とは違い、ほとんど出入りがなく埃っぽい室内。岬は扉を閉めた庵を見据え、首を傾げた。


「答えてほしいか?」


進路の相談というのは、どうやらお門違いらしい。岬は振り向いたその妖艶な笑みに、思わず一歩後ずさる。なぜか背筋がゾクリと呻いた。


「う、うん……」


頷きながら、背に当たる本の感触。気付けば後ろは行き止まり。


……やっぱり、なにかがおかしい。庵が庵でないような———。思い伏せながら、一文字に口を結ぶ。直後、穏やかながらも冷えた風が、窓の隙間から吹き込む。金色の髪が綺麗に靡いて、その束に目を奪われる。


変化が及んだのはほんの一瞬だった。

毛先に向かって色が抜けていく。ムラのない金髪から、糸のような白髪へ変わっていく。


「え……」


ふわり。取り入れ慣れた香りが鼻腔を刺激する。目の前に立っていたのは庵だった、はずなのに。


「あいつにしては、空気の読めたタイミングだな」


窓の外を見やると同時、彼は満足げな笑みを浮かべる。見慣れた表情で、見慣れない制服を纏った姿。そこに居たのは、厘だった。