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厘の意識を取り戻そうと、奮闘していたあのとき。
記憶が飛ぶほど懸命に、向日葵を注ぎ込んでいた。朦朧とした意識のなか、ようやく鈍色の瞳が覗いたときには、安堵した。呼吸を忘れていたことさえも忘れていて、だから吐いた瞬間、思わず零れてしまった。
「うぅ……」
岬は後頭部を抱えながら、机に額をすり寄せる。新学期を迎え、新しい教室にも穏やかな風が吹き込むなか、早々塞ぎ込んでしまっていた。想いの籠った「好き」はきっと、遊園地の時のようには誤魔化せない。———それに、
「あんなキスまで……」
思い返す。向日葵の精気を確実に注ぎ込むため、押し込んだ。あのとき触れた、薄い舌の感触。
「キスがどうしたの?」
「……へ?」
不意を突いた声掛けに、腑抜けた返事で顔を上げる。正面で首を傾げているクラスメートを見つめ、岬は目を丸くする。高校に入って久しく、生徒から声をかけられた。
「花籠さん?」
「あっ……えぇっと、何でもない、です」
しどろもどろ。それでも、精一杯の誠意。
前のクラスでも、その前のクラスでも。新学期となれば後ろ指を差され、『あれが例の花籠岬だ』と気味悪がられることが常だったからだ。
岬は緊張の糸を張ったまま、彼女から視線を逸らす。そしてもう一度、下からこっそり垣間見る。
「ふぅん、そっか」
気味悪がる素振りもなく、まっすぐこちらを見据える瞳に、思わず期待を寄せたくもなる。しかし、よりにもよってこんな独り言を聞かれるなんて……。岬は自分の言動を悔んだ。