しかし、それに続いた表情は、見たことがないはずだ。気恥ずかしいような、嬉しいような、複雑な笑みの匂いがする。


『……俺は、また会えるのか』


岬と、また。そう続けた厘に、宇美は大きく頷く。


『もうすでに感じているでしょ。あの子から注がれる生気を』


瞬間、身体中を巡る血液が脈を叩く。強く、何度も。


これを……岬が?


『私も、まだ逝きたくなんてなかった。でもね、』


熱くほとばしる血潮を感じながら、厘は目の前で消え入りそうな声に耳を澄ませた。岬の前では決して放たれたことのない、涙の滲んだ声だった。


『厘が化身として現れてくれたことも。あの子に恋を教えられたことも。……本当に、良かったと思ってる。本当に、本当に』


貴方が、岬を愛してくれていることも———。
加えられた言葉に、厘は顔を火照らせる。在るはずのない “母親” という居場所を、今さら実感した。彼女に抱いていた感情は、親愛と呼んで相違ないだろう。


『だから絶対に、権利がないなんて思わないで。貴方も岬も、愛し、愛される命であってほしいから』