“再び幸せが訪れる”


鈴蘭の花言葉を、厘は疾うに理解していた。ただ、見合うとは到底思えない。寵愛する娘を幸せにするどころか、この世に置いて行こうとしているのだから。


「もっと、もっとよ。厘。この体に注ぎ込んで、一緒に逝きましょう」


幸と名乗った地縛霊は、唇を貪るように深くキスを重ねた。


「ああ……救わせてくれ。岬」


そして、何度も応えた。隙間で、幸の名前を呼ぶことは一度もなかった。怒りをぶつけることもなかった。殊勝なことに、最期くらい、愛おしい娘の笑顔だけを浮かべていたかったらしい。


シトシトと降り注ぐ細い雨のように、か弱い娘。籠の中に収まっていた自分に、愛を教えてくれた存在。


せめて、お前を愛している、と伝えておきたかった。他の誰かを愛することがあっても、いつか呪いのように、この鈴蘭の卑しい香りが蘇るように。
  



———お願い……起きて。

 
そんな邪念を払ったのは、またしても岬の声だった。遠のく意識に語り掛けるように響く、細い声。ただし、今までのそれとは明らかに違う。


……幸が操っているものではない。


気が付いた時、パリンッ———!! と、尖った音が鼓膜を震わせる。岬の身に何かあったのか、と案じても身体はピクリとも動かない。瞼さえ閉じられたままだ。