———貴方と一緒なら、きっと私は彼の世へ逝ける。

そう確信して、幸は瘴気をその花に注いだ。そばにある草木はすぐに朽ち果てたというのに、なかなか精気を減らさない。そんな凛々しさに、幸の高揚感はますます拍車を掛けられ、恋心と呼ぶに等しい感情へと育っていった。



『あのね、岬。お母さん、この子がピンチだったから救ってあげたんだ』


しかし、花籠宇美が現れた瞬間。厘を失った瞬間。幸にはとある感情が沸々と蘇った。忘れかけていた、母親という名の女の影。


せっかく手に入れた嗜好を、私はまた “母親” という卑しい存在に奪われるのか。そんなの嫌だ。呪ってやる。お前がダメなら、その娘。絶対、絶対許さない。厘は手放してしまったけれど、しかしまだ———。


瘴気のおかげか、宇美の霊力は疲弊していた。幸は執念の渦を巻き、宇美の疲労に付け込んで、娘の扉をこじ開けた。そのまま憑依を済ませて、厘を奪うつもりだった。ずっと触れたかったその花弁に、触れられるはずだった。


『岬、大丈夫だよ。大丈夫だからね』


しかし、それは叶わなかった。全て、宇美が霊力で施した “膜” のせいだと分かった。岬を守るために張られた、幸のみ(・・)を拒む見えない壁。近づこうとすれば、押し寄せる波が体を拒む。


目には目を、歯には歯を。と、言わんばかり。自分の力だけでは多種多様な霊力には敵わない、と宇美は悟っているようだった。敵意を向ける幸だけを拒むことは、効率的かつ懸命な判断だ。称えながら、幸は唇を噛み締めた。