———『幸子の一番は、お母さんでしょ?だってほら。友だちはすぐにあなたを傷付けるじゃない』
「あなたの一番は、いつだって私じゃないのに」
初めて声に出したとき、幸の首はすでに縄に掛かっていた。
もう、あの女の呪いから解放してよ。独りにしてよ。
思っていたはずなのに、霊魂はその場に留まり続けて動かない。代わりに、歪な死体に触れようともしない母親を前に、虚無感がまとわりついた。呪いはいつまで続くのか、と。毎日毎日、天を仰いだ。
早く連れて行って。お願い、早く———。
そう願っていた日々を変えたのが、貴方だった。たった一人、貴方だったよ、厘。
<シロツメクサ……じゃあない……?>
月明りに照らされた、白い花弁。大嫌いな花と同じ色をしているはずなのに、雰囲気は妖艶としていて美しい。透き通ったその花弁に、不本意にも、触れたくなった。
<ねぇ、貴方って普通のお花じゃないんでしょ>
しかし、どう頑張っても触れられない。
<この地に宿っている命の気配、私、なんとなく分かるようになってきたの>
それなのに、月夜のたびに魅せられて、思いは募るばかりだった。虚しさなど消え失せてしまうくらい、欲望に満たされた。