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大丈夫。もう、私は分かっている。人を愛する力の強さも、何を犠牲にしても護りたいと思えるほど、愛しい存在も。
光を失くした暗闇のなか、岬は再び聳える扉に手を触れる。波に足を掬われず立っていられるのは、気持ちに整理がついたからか。
岬はそっと息を吐く。
お母さん。私、厘が大好きだよ。お母さんと同じくらい、大好きで。今は厘と一緒に生きていたくて、彼のことで頭が一杯。でも、随分最近まではそれが怖いと思ってた。あなたへの愛を、忘れてしまうようで怖かった——。
一番は母でなければいけない。そうしてずっと躊躇っていた。厘や庵と出会うまでは、一つの居場所しか選択肢がなかったから、今の今まで知らずにいたんだ。
「……でも、違ったね」
愛する気持ちに順番なんてない。愛することで、あなたを忘れてしまうこともない。
私がここで、生きている限り。
「幸。ねぇ、お願い。私から……出て行って」