「大丈夫。それならきっと救えるよ」


きっと、じゃないな、絶対に。力強く加えられる言葉。聲色(こわいろ)で、微笑んでいるのが分かった。


「でも、どうやって……」

「もう分かっているはずでしょう。岬」


被せるように告げられる。岬は喉を鳴らした。


「大丈夫。だって、ちゃんと見守ってきた私が言うんだもの」


寄せられる強い波が、浮いた涙の粒を攫っていく。瞬間、ほんの一瞬。光の中に、母のシルエットが浮かんだ気がした。


四十九日のあと、ぽっかりと空いた穴。あの感覚は、寂しさのせいだけではなくて。きっと居場所を失くしたこの体を、ずっと支え続けていた。彼の世へ逝ってしまう、寸前まで。


「これから……私が戻ったら、お母さんは消えちゃうの……?」


流されきった涙が、再び海を彷徨う。対して母は陽気に笑いながら、岬の身体を包み込む。優しくも勇ましい陽だまりが、溶けて体に注ぎ込まれるようだ。


「消さないでよ。寂しいじゃん」


静かに、耳元に落とされた声。岬は笑った。どこまでも、母らしい。


「岬。まだ、あのペンダントは持っている?肌身離さず」

「……?うん、持ってるよ」

「じゃあ、よく聞いて———」


今までになく、真剣に紡がれた教え。岬は耳を澄ませた。
幼い頃、眠る前によく聴いていたおとぎ話のようで、まるで現実とは信じがたい事実。それでも、岬には信じる以外の選択肢は残されていなかった。


非情な現実から救いだしてくれたのは、いつだって、“おとぎ話” から出てきたような彼ら(・・)だったから。



「絶対に大丈夫。……いってらっしゃい。岬」

「行ってきます」


離れていく陽だまりに、もう手は伸ばさない。岬は、温かい光に別れを告げる。


最後だけ、微かに震えた母の声を留めるように、ペンダントを強く握りしめた。