「ごめんね。お母さん、最後まで岬を守ってあげられなくて」
それでも、前に居る事だけは分かる。クラゲになることは叶わず、しかし声を聞いただけで涙が溢れる心に、岬は安堵した。
「守ってくれていたんだね。私、何も知らなくて。何も、解っていなくて……。厘にも救けられてばかりで、」
何度拭っても拭いきれない、涙の粒。現実ではないからか、海に雫が浮遊する。母の光を通して、それはキラキラと一層目を眩ませた。
「そう。リリィの本当の名は、厘っていうのね。お母さん、最期まで知らなかったなぁ」
「……どうして、お母さんは———」
「うん。リリィがただの生花じゃないって、知っていたよ」
母は包み込むようなトーンで打ち明けた。
あの日、幼い岬が倒れた直後、厘の花弁を呑ませたこと。自分が亡き後も必ず護ってほしいと唱え続けたこと。どんな形でもいいから一人でも多く、自分以外の人を愛してほしいと願っていたこと。
「岬は、厘のことが好きなんだね」
「……うん」
岬は俯き加減で頷く。初恋を打ち明けることの気恥ずかしさを、齡十七にして初めて知った。