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母も、厘も、口を揃えて「岬は強くなれる」と言っていた。しかし実際のところ、抗っても、探っても、開かれた扉を閉ざすことは叶わなかった。完全憑依は完全憑依のまま、例によって厘の精気を貪った。
もう二度と、大切な人を失いたくない。死なせない。そう誓ったはずなのに。
「岬……岬!」
え……?
憶えのある、柔らかい光。岬はゆっくりと瞼を持ち上げ、それを捉える。眩しくて眉を寄せる。瞳孔が狭まっていくのを感じながら、無意識に伸びていた手に、岬は戸惑った。そして同時に、これは夢か、もしくは極楽浄土であると悟った。
でなければ、この声が届くことはあり得ない。
「岬。起きてる?」
大好きな母の、柔らかい声だ。
「お母さん……」
体は海に浮かんで、思うように動かない。腕も足も波にとられて、それでも気持ちがいい。岬は思わず目を閉じた。
脳器官を持たないクラゲのように、なにも考えずにプカプカと浮いているのも悪くないのかも、と一瞬たしかに耄碌した。
また厘に叱られそうだ、と、重たい瞼を持ち上げる。しかし、目の前にいるはずの母の表情は、後光のせいで窺えない。シルエットさえ、象ることはできなかった。