憑く霊魂を、操る……?
脳裏に過ったのは、霊魂と交わした会話のすべて。厘を揶揄するみさ緒。冷静沈着に導いてくれた汐織。——今までのすべてが、無意識に起こされた。


「そりゃあ、想定外はあったよ?でも、全部いい方に転んでくれたかな。それもね……あの女が死んでくれたから、なんだよ」


キャハハ、と笑い声を上げる寸前。

岬はその喉を締め付けた。自分の掌が、自らの意思で物理的に締め付けているのだと悟ったのは、厘が血相を変えて「岬!」と叫んだ直後。


暗闇に包まれていた視界は、次第に靄の掛かった現実世界へと開けていく。しかし未だ、すりガラスが瞳の水晶体に張り付いているかの如く、不透明なシルエットしか映らない。代わりに、喉元を押さえた手を引き剥がそうとする厘の体温は、しっかりと肌に通じた。


「ど、うして……私はまだ、憑いているのよ」


押し殺したような声で言うのは、幸の意識。動揺を誘うも、憑依を塞き止めることは未だ叶わず。主導権は彼女の手の内にあることを理解し、岬は再び瞼を下ろした。すりガラスの名残か、暗闇のなかでキラキラと何かが弾けた。


「岬……?」


変化を察したように、厘は呟く。大丈夫……ちゃんと、聴こえてる。


「岬はまだいないよ……何を言ってるの、厘」