「ウフフフ。どうだった?苦しかったでしょう?強い恨みつらみを抱いて死んだ霊魂には、そういう力が備わっているの。知ってた?」
「あの鬼も、同類というわけか」
記憶はほとんど無いに等しかったが、先刻まで内側に在った残像が疼く。厘の言う鬼が、幸の前に自分を操っていた霊魂なのだ、と体が訴えているようだ。
「そっかぁ……獣鬼がただの霊じゃないってことにも、気付いてたんだね」
「アレを利用したのはお前だろう」
霊魂の恨みを利用して、幸は一体何を。そう唱えた心の内を見透かしたように、彼女は薄い唇を割った。
「うんっ、そうよ。獣鬼はね、君たちみたいに人と共存できる化け物のことも、人間自体の存在もすごく嫌っていたからね。一石二鳥。一挙両得。イイ復讐ができるよ、って、持ちかけたんだ。———この娘に憑いて、厘に口付けをして欲しい。そうすれば、まず彼は瀕死に陥るよって」
満足げに喉を鳴らす。いつも不気味な笑い声が伴う台詞に、嫌悪感が募っていく。岬の意識は再び、黒い渦に巻かれた。
「ずっとね、厘の精気がすり減っていくのを待ってたんだよ。こうやってね。限界を迎えた瞬間にまた会えるように。入念に、にゅ~ねんに、タイミングを計って」
「……つまり、すべてお前の差し金だったという訳か。お前が……岬に憑く霊魂を操っていたのか」