「さすが厘だね。正解だよ。ずぅっと君を待っていたんだから。それと、私のことは幸って呼んでよ。“地縛霊” だなんて、聞こえが悪いじゃない」
「……お前が岬に、呪いをかけたのか」
聞き慣れないフレーズに、岬は戸惑った。
「アハハッ、呪いだなんて言いがかりだよ。私はきっかけを作っただけ」
「現に、岬は憑依体質のせいで精気を削られている。呪いと呼んで間違いないだろ」
「うーん……なんだか随分恨まれてるなぁ。ねぇ、もしかして、厘はこの子が好きなの?」
自分の口から発せられているとは思えないくらい、厚みを増していく声。魂を蝕んでいく黒い感情。全て、幸のものだ。
「ああ、愛している。誰よりも」
瞬間、体のどこかにヒビが入ったような、痛覚が走る。
……痛い……?
厘の返答が耳に届かないほど懸命に、岬は痛みに感覚を澄ました。
「へぇ……本当、この娘もこの娘の親も、目障りねぇ」
指先から通じる、厘の体温。幸が彼の肌に触れていることは、明白だった。そして、五感が自身のものに帰化し始めていることも、確かだった。
生ぬるくて、愛おしい。視界に捉えなくとも分かる。母に伸ばした手を引き戻してくれた、尊い体温。伝う。伝わる。心臓まで熱く響いている。