——————……


「キャハハハハッ!……ねぇ、やっと会えたね。厘」


数秒後。自分の声帯で響く、見ず知らずの声。岬は闇の中で、“中身” の言葉に耳を傾けた。


完全憑依。いまは間違いなくその状態のはずなのに、意識はあった。体の主導権はなくとも、岬はしっかりと自分を保っていた。
明らかに今までとは違う。たとえるなら、明晰夢に近い。摂り入れ慣れた鈴蘭の香りで、厘が傍にいることも分かる。その隣には庵も居た。


「なんだ……?また憑かれたのか?」

「そうだな。こうも立て続けに……吐き気がする」


ほら、だって、二人の声が交互に響く。この体を警戒するような口調で、慎重に。


「アハッ、やっぱすでに怪しいと思ってる?さすが厘だね。また会えて、本当に嬉しいよ」


中で響いていた口調とは打って変わって、弾んだような喋り。
『やっと会えた』『また会えて』———最初から、厘を知っていた人。厘を求めていた人。この河川敷と、強く関わりのある誰か。


“彼女” が放った言葉を思い返しながら、岬は思考を巡らせた。