悪霊である “夢魔” が憑いていたときと、きっと同じ様に———心の内で加えながら、思い返す。厘の体力がこうまで削られていた様子は、夢魔のときと酷似していた。
「護りたかったんだろうな、心底お前を。ただ、こいつは荒療治が過ぎンだよ。……萎れるまで注がなきゃ、救けられなかったんだろうな」
答えた直後、平行線に口を縛る庵。傾いた西日に照らされた横顔は、再び悔恨の色を覗かせた。
「庵は、知ってたの……?厘が私に、その……」
「ああ……精気を送り込む、ってやつをか?」
岬は項垂れた厘の唇を一瞥し、頷いた。
「とっくに知っていた。目の前でやられるとは思ってなかったけどな」
庵は意地悪く口角を持ち上げたあと、岬の頭を優しく撫でる。逞しい手の感触が、新鮮だった。
「胸糞悪ぃが……まぁ、お前が無事なら俺は良い。こいつも役に立つってことだ」
庵も心配してくれていたのだろうか。
あやふやな記憶を呼び起こしても、彼の様子を思い出すことはできなかった。残っているのはやはり、籠ったように響く厘の声だけ。
「厘……厘、」
岬は彼の手を握り、絞り出した声を落とす。触れた体温はまだ生温かく、ここに在ることを教えてくれた。
「ありがとう。ありがとう……。でも、もう無理しないで。私を救うために、削らないで」
一度に大量の精気が削がれなければ———。
胡嘉子からの忠告を脳裏に浮かべながら、思わず唇を噛みしめる。厘はその手を軽く握り返した。