安堵と共に漏れる息。見るからに力尽きていて、しかし瀕死ではない。それでも岬は、悔まずにはいられなかった。また、命を賭して自分を護ってくれたのだ、と語られずとも解っていた。


「なんだよ、らしくねぇ……」


傍にいた庵は軽く舌打ちをした直後、厘の腰を折るように担ぎ上げる。文句を垂れながらも、庵は歯を食いしばっていた。まるで、鏡を見ているようだった。


「ねぇ庵……私は、何に憑かれていたの……」


岬は訊ねる。シートに散乱した酒と桜の痕跡を見据え、響いた厘の声を懸命に起こしながら、庵を見上げた。


「鬼、と言っていたな」

「おに……?」

「恨みつらみの類。そういう “気” はビシビシ感じた。憑いてた野郎は憎んでいたんだろうよ。……何かを強く」


ほら。片して早く帰るぞ。

言いながら、庵は春風に金色の髪を靡かせる。彼の肩に担がれた厘は、不服そうにその横顔を睨み見る。しかし、いつもなら「放せ」と退けるはずの厘は、大人しくしたがっていた。それほどに堪えているのかもしれない。


岬は怠さの残った体で敷物を仕舞い、リュックを背負う。行きよりもはるかに重たく感じられた。


「庵は、見てたんだよね」

「ああ、見てたぞ。全部な」


大通りを避け、出来る限り近道を行く家路のなか、岬は俯きながら影を踏んだ。


「厘は私を、また(たす)けてくれたんだよね」