自分が追い出されることなど、想定していないのだろう。なぜ地縛霊へ下ったのかは不明だが、霊魂となったいまでも自分の力を過信している。そして、鈴蘭の妖花がこの娘に尽くすと知っている。全霊を尽くし護ったとしても、追い出せないほどの力で憑くことができる、と信じている。
しかし、この推測が正しければ、情報量に不足があるな。
厘はほくそ笑み、岬の顎を掬い上げた。
「な、んだ……」
庵よ。手首を縛る手際の良さは褒め讃えてやるが、ある意味、愚策かもしれないぞ。
「へぇ……かわいいものだ」
中身は違えど、必死でこちらを見上げる岬の瞳に、ゾクゾクと得体の知れない煩悩が込み上げてしまう。厘は懸命に本能を縛った。
「ああ、遅くなってすまない。最後の問いだ。心して聞け」
「だっ、から、なんだってんだよ」
必死に喉を通したような声に、そっと近づきながら訊ねた。
「致死量を知っているか」
「……はぁ?」
腑抜けた反応を前に、厘は唇を近づける。そして、鈍色の瞳を赤褐色へと変え、毒素をふんだんに這い上げた。