———『一遍に……あまり一遍に、精気を注がないよう気をつけなさい。でないと、貴方が死にますよ』


浮わついた望みの傍ら、胡嘉子の忠告が蘇る。
平気だ……この怨霊を追い出すだけなら、なんとか保つだろう。本来の岬が帰ってくれば、変わらずあの笑顔が見られる。必ず、見られる。


「とぼけるな。この娘の命に、俺が関わっていることをだ」


厘は拳を握りしめ、唇を重ねた真意を突き詰める。岬の皮を纏った鬼は存外、素直に「ああ」と頷いた。


……まだ。まだだ。厘はその華奢な体に影を落とし、爪がめり込むほど強く、拳に力を込めた。まだ、明かさなければいけないことがある。


「お前の裏で、糸を引いているやつがいるな」

「あー、これ言っていいやつか? まー口止めはされてねぇからなァ」

「つまり、いるということか」

「ははは、こりゃあ話が早くていい」


岬には似合わない、高飛車な笑い声。ほんのりと頬が赤いのは、アルコールが回ったからだろう。


「こちらも早いに越したことはない。俺にはすでに見えている。……お前が令を下された相手は “地縛霊” だろう。岬と……この娘と母親が一度訪れた、河川敷の地縛霊だ」


目覚めたとき、岬はすぐ素面(しらふ)に戻れるのか。そう案じられるほどに、心の内は存外、穏やかだった。過去と照らし合わせ、核心を突きながらも冷静だった。