言いながら唇を舐める岬の妖艶さに、思わずゴクリと喉を鳴らす。先に素性を見抜かれたのは自分の方だ、と厘は悟った。
「いわゆる下衆ヤロウ。かつては人を襲ったこともある。俺は “鬼” だ」
「鬼……?」
「ああ。まぁ今ではすでに霊魂……本体は全身焼き切れているが———」
「……は、」
聞き入るあまり、油断していた。
ものの一瞬で後ろ首を捕まれ、唇を重ねられる。後の祭り。それでも辛うじて、岬の身体を払い退けた。
「……どういうつもりだ」
傍で様子を見ていた庵は、会話の最中に妖術で編み上げた縄を、細い手首に縛り付ける。行間を読めない庵でさえ、ただならぬ空気を感じたのだろう。厘はその様を見据えながら、逡巡した。
古から伝わる昔話。鬼は人を襲っていただけではない。人を襲い、襲われ、恨みを募らせていたという。となれば奴は、悪霊ではない。───怨霊だ。
「お前……まさか知っているのか」
「何のことだ?」
後ろに手を縛られたまま、鬼は口角を持ち上げる。初めから鼻についていた余裕と、重ねられた唇に見える真実。おそらく、岬の体質と注ぐ精気の関係を知っている者。そして、俺の死を望む者———いや……考えすぎか。
推測は辿るたびに、良くない方向へ進んでいく。これが夢であれば、どんなに良かっただろう。