「この小娘が下戸でないことを祈ろう」
対して堂々と佇む霊魂は、岬の背筋を反るように伸ばし、喉を鳴らしながら酒を含んだ。
いいから……早く明かせ。厘は吊り上った瞳で、妙にいい飲みっぷりを睨みつけた。
「ああ~っ、んめぇ!こりゃあ確かに上物だ。褒めて遣わす」
「対価を払え」
「……ククッ。なんだなんだ、やはり焦っているなぁ?」
やはり———。
嘲笑を含んだ言葉に、厘は顔をしかめる。庵は痛めた手を摩りながら、奴を鋭く見下していた。岬の身体でなければ、とっくに制裁を加えたい心情だろう。生憎、今回ばかりは気持ちを汲んだ。
「まぁまぁ。酒を嗜みながらゆ~っくり話そうぜ。俺も久々なんだ」
「お前と交わす杯はない。さっさと吐け、下衆野郎」
瞬間、岬の眉がピクリと動く。そして腹を抱えて笑い出した。
「さすがあやかし一派。よく見抜いたなァ、俺が下衆だと」
お門違いにもほどがある。厘はその胸倉を引き寄せた。
「あぁ?違うな。見抜いたのではない。岬の体を乗っ取った時点で下衆だと、俺が決めたんだ」
ドスを利かせた声に、岬の喉は再び乾いた笑いを響かせる。
「いい……いいなァ。お前のその眼」
「なにがだ」
「殺気と愛に塗れた混沌が、だよ。そうだな……その眼に免じて教えてやろう。俺の正体はな、」