たまに———岬は呑み込みながら、 人に為ったばかりの妖花のスペックに感嘆する。料理の才能はてんで無い岬は、少し骨が刺さった思いでいた。
「リリィって、器用なんだね」
「べつに普通だ。……それより、そろそろやめないか。その呼び名」
シャリ。玉ねぎを林檎のように齧りながら、薄い唇を割ったため息。その一息に、決して軽くない思いが込められる。母と付けた名前は捨てがたいけれど、“ リリィ ” という渾名は可愛らしすぎるのかも……、と逡巡した。
「やっぱり……女性っぽくて嫌だよね」
「草花ゆえ、本来の姿であるときは明確に区分けされているわけではない。が、確かに俺は雄だ。リリィという響きも正直似つかわしくないとは思っている。まぁそれより、」
草花と花の違いってなんだっけ。首を傾げると、眉間に指の腹が押し当てられる。爪先がめり込まないよう反る配慮も、やはり彼は忘れなかった。
「“Lily” 単体は百合の意を表す。いけ好か……いや、どうにも引っかかっていた」
不自然な転換は岬の脳裏を通り越し、代わりになるほど、と拳を打つ。そして、不躾な呼び方を長年続けていたことに、少しばつが悪くなった。
「ごめんなさい……」
「謝る必要はない。ただ、引っ掛かっていただけだ」
「じゃあ……これからは何て、」
「厘」
「え?」
「俺の名だ。好きなように呼べばいい」
額から、指の腹が退く。同時に視線を逸らしながら、彼は眉を寄せた。