どうやら、庵の初動に先を越されたらしい。行き場のなくした手を下ろし、厘は再び頬張った。


「お前、意外と抜け目が無いな」

「……あぁ?どういう意味だコラ」

「自覚なしか。余計にタチが悪い」

「自覚?なんのだよ、はっきり言え!」


うるさい。やかましい。邪魔者第一号。果たしてこいつが岬に抱く感情は、恋心なのか、否か。……ああ、知りたくもない。


「酒でも飲んで大人しくしていろ」

「なっ……あるなら先に言え」


懐から純米吟醸を取り出すと、庵は寄せていた眉間を伸ばし、大人しく注ぎだした。やはり花より団子か。


「へぇ……梅、って字が入ってるんだね、このお酒。お花見にピッタリ」


岬は二升瓶を覗き込み、興味深そうに言った。


「そういえばそうだな」

「本当に知らなかったのかよ。皮肉なもんだな」


一瞬で酒を流し込んだ庵を、厘は密かに睨み見る。が、反論はできなかった。無自覚とはいえ、自分でもそう感じていたからだ。


「皮肉……?どうして?」

「日本の代表花———梅はその座を取って代わられたからな。この壮大な桜に」


かつて、詩人が(うた)っていた “花” といえば、香り高い梅ひとつ。しかし、時代を巡るごとにその “花” は桜の意へと変化した。そうでなければ、梅の妖花(あいつ)は、ああまで捻くれてはいないだろう。国花と(うた)われる胡嘉子と仲が悪いのも、頷ける。