「今用意するよ。私もお腹空いてきちゃった」

「敷物、持ってきたか」

「うん」


レジャーシートを広げると、風に煽られて花が舞う。軽く、四方に散らばった。


「本当に誰もいないね……いつ見つけたの?この場所」


岬は何段も重なる弁当箱を、上から順にせっせと並べる。厘はその様子を目で追いながら、沈黙した。


穴場なのは確かだが、見晴らしのいい丘の上に一本桜は良く映える。シーズン真っ盛りに誰一人として現れないなど、到底有り得ない。しかし、誰一人として現れない。


念には念を。厘は、妖術で一本桜の気配を消していた。


「お前が学校に居る間、たまたま見つけたんだ」


ただ、岬に知られるのは気恥ずかしい。この空間を誰にも邪魔されたくなかった、と打ち明けるのは、想いを伝えてからの方が賢明だ。


厘は岬お手製のサンドイッチを頬張りながら、目を背けた。


「うまいな」

「本当?よかったぁ……」


彼女は頬を緩めて「綺麗だね」と続けた。見上げた先には、三人を覆う桜の影。


「岬」

「え……?」


そして、細く長い髪に絡まる花弁。取ってやろうと伸ばした手は、庵の体に阻まれた。


「おい、ついてんぞ」

「あ、本当だ。ありがとう」