ピクリ。吐息に反応する華奢な体。どうか、他の男にはそんな風に反応しないでくれ。そう呪いをかける方法はないのか、と邪念が浮かぶくらいにはすでに狂っていた。出来ることなら、何事もなくこの日々が続くように、と天に祈るくらいには———、



「あ、れ……わたし……」


傍ら、少し掠れた朝の声が響く。まだ薄開きの瞳に、厘は笑みを零した。


「おはよう。岬」

「……え」


仰向けだった岬がこちらを向いて、鼻先が微かに触れ合う。そこから熱が広がったのか、やけに血色が良くなる頬。そろそろ花開く、梅の色によく似ている。そうしてしばらく、口をパクパクと動かしているだけの図に、厘は喉を鳴らした。


「随分と大胆だったな。まさか、隣で寝られるとは」


ぬけぬけとよく言う。厘は自然と持ち上がる口角に、改めて失望する。

『愛している』『ずっと傍にいてほしい』———殊勝な言葉はより単純で、鈍いこの娘にも必ず伝わる代物だというのに、そんなものはちっとも出てこない。代わりに放たれるのは、捻くれた冷やかしの言葉だけ。