前兆が無かった訳ではない。それなりに覚悟もできていたわけだが、どうにも調子が狂う。


「……———」


厘は傍で横たわる岬の髪を、一束大事に掬い取る。彼女はすっかり安心しきった様子で、細い寝息を立てていた。


男の横で安堵しきるな、と言いたいのは山々。しかし、昨晩落ち度があったのは自分だと、身をもって知っている。


体調を崩し項垂れてるところを、岬は夜な夜な看病してくれていたのだろう。まぁ、ともに居間で寝ていたということは、睡魔に耐えきれず寝落ちてしまったらしいが。


「……やはり、少しは警戒しろ」


ため息交じりに呟く。そして、彼女の首筋に顔を埋め、触れるだけのキスをした。同時に、少しでも力を込めればすぐに痕付けできてしまいそうな、その白い肌に目が眩む。


命を賭してでも守る———。
その決心に揺らぎはない。しかし、岬の将来を案じる自分が存在するのも確かだった。


齢十七の少女も、いずれは淑女へと成長していく。あり得なくはない(・・・・・・・・)。むしろ、高確率で訪れる未来。この無垢な肌に男の手が触れることも、唇を寄せられることも、岬が男の背に爪を立て、愛されることを望む日々も。


「見届けるよりは大分ましか」