胡嘉子は語尾を強調し、そう加えた。岬を震えを鎮めながら、煌びやかなその瞳を見つめる。


「私が、何かできることはないんでしょうか」


厘が注いでしまったら。完全憑依の間、止めることが出来なかったら。無理をして、自分の精気を削いでしまったら。


今までも、大量の精気を送り込んでくれた事があったのだろう。今後も同じような事が無いとは限らない。自分を救けるために、それも記憶に残らないまま厘が逝ってしまうなど、絶対に耐えられない。


岬は拳を強く握りしめた。


「捨ててください」

「すて、る……?」

「はい。大切なものを守りたいのであれば、拒むことを覚えなさい。良心を捨てなさい」


胡嘉子の凛々しい声に、岬は肩で反応する。そして、反芻した。



———『己を(けが)してでも、守りたいと思えるのなら』


その夜、岬は最後に告げられた言葉を巡らせた。頭の中で、何度も。何度も。


「絶対……今度は絶対、私が守るよ」


細く息を吸い込む寝顔を、そっと覗き込む。安らかなその表情に涙が溢れ落ちたことを、厘は知らなかった。