どうして———せっかく、忍ばせたのに。これじゃあ、また溢れてしまう。
「岬」
「……?」
「俺はお前を、必ず護る」
離れた体温。隙間に割り込む空気が冷たい。街灯に照らされた二つの吐息に、岬は目を細めた。
「それなら私は、厘を護るよ」
乾いた唇を割った瞬間、厘の影が覆いかぶさる。
まだ、飛沙斗は憑いたばかりなのに———。思いながら、しかし岬は覚悟を決めて目を閉じる。半年の間に、何度も重ねた唇の気配が近づいた。
「……?」
間違いなく、近づいたはずなのに。今日だけは、どこか様子が違った。
「厘……、厘……———?」
感じる重み。徐々に沈んでいく肩に、岬は気が付いた。厘の体重だということに、ようやく気が付いた。
「ハァ……ハァ……」
項垂れ、息の荒い厘。岬は声を殺し、息を呑む。思い出す。
ここ最近、おかしかった厘の様子。どうして、もっと迫らなかったのだろう。どうして、体調の変化に気づけなかったのだろう———。
『岬ちゃん。黙っててごめん』
「……え?」
予期していたかのような飛沙斗の、冷静な声。彼を懸命に支えながら、続く言葉と己の無力さに、岬は唇を噛み締めた。
『———厘くんさ……精気が減ってるんだよ。異常に減ってるんだよ』