「いつもありがとう。厘」


収まりきらない分はどうしようか。思い伏せながら目を細めた直後、厘の表情が白いライトに照らされる。瞬間、二人の横をバイクが素早く通り過ぎる。


ブォンッ———!!


「わっ———、」


エンジンの重低音が耳を掠めた拍子、よろけた岬はテールランプを見送りながら、厘の体に飛び込む。


「ご、ごめ……っ?!」


荒波を立てる脈に気づかれないよう、離れようと試みて。しかし、それは叶わなかった。


「お前から礼を貰う権利など、俺にはないんだ」


息が苦しい。籠ったように響く声は、確かに厘のものだと分かるのに、うまく聞き取ることができなかった。彼の胸の中にすっぽりと収まってしまったから、という理由の他に、自分の心音が鼓膜を占領しているからだ、と岬は理解した。


厘は離れようとする岬の肩を、胸元へ引き寄せる。辛うじて写った視界のなか。差し出したチョコレートの箱は、その大きな掌に握られていた。


「り……厘……?」


コート越しにもしっとり伝わる、厘の温度。生きている温度。徐々に強く締め付けられる体に、心臓はいとも容易く抉られた。