「気にしているのか」
「今日食べた分は当分控えなきゃ……」
苦笑を浮かべると、厘は瞬きしながら首を傾げる。
「お前はもう少し肉を付けても構わんだろう」
「そんなこと……だって、お腹もこんなに」
自分の脇腹をつねり、岬は落胆する。同時にまじまじと向けられる視線に、思わず俯く。しかし厘は、さらに首を捻って言った。
「そこに目立つ脂肪など、殆ど無かったがな」
え———?
岬は目を丸くして、正面を見上げる。厘はしまった、とでも言いたげな様子で口元を覆う。そっぽを向いたせいで、赤く湖畔を作った首筋が露わになっていた。
なかった、って。なかった、って。厘は私の———。
「へ……?」
素っ頓狂な声で反応した岬に追い打ちをかけたのは、中の声だった。
『へぇー。なんだ、身体とか見せ合う関係なの?』
爪先から頭の先まで、みるみる熱が込み上げる。違う、と否定する言葉さえ出てこない。もはや否定以前、厘の言葉の真意を図れない。本当に体を見たかのような口ぶりが、頭のネジを熱して飛ばす。
「……岬。あとで話す……から、少し待っていてくれ」
歯切れ悪く言いながら、彼は目の前のタルトを一口、二口で食べ尽くす。心ここに非ずな彼の視線は、いつもより数段熱を持っていた。