「お前、甘いものが好きなのか」

『そりゃあ、だって俺は』


蜜を吸う蝶だから──。
飛沙斗が続けた事実に「そういえば」と納得する。姿が見えない岬は、霊魂の生前の姿を忘れかけていた。やりとりをするうちに、情報は溶け込んでいた。そして、命を宿すもの、(かたち)を取っ払えばすべて同じ魂なのだと思い知った。


『生前は、蜜が大好きでさ』

「蝶だしな」


苦笑。眉間を摘まむ厘。彼自身、蜜を吸いだされる側だったからだろうか。精気を注いで貰っている私も立場が似ているな、と少しばつが悪くなった。


「どうした、岬」

「う、ううん……なんでもない。いただきます……っ」


これまで、精気を注ぐことに嫌悪感を示さなかったのは、使命だからだ。それ以上も以下もない。判っている。しっかり解っている。


岬は首を横に振った後、スイーツに手を伸ばす。口一杯に甘さが広がっているはずなのに、胸には棘が突き刺さるように痛みが走った。


「美味いか」

「うん、美味しい」


目を細めると、厘は安堵したように頬杖を突く。岬は思い伏せた。

どうか、気づかれませんように。笑みの奥で、貪欲な想いをひた隠していることにも。何気ない仕草にときめいてしまっていることにも———。