「岬、これはどういう仕組みだ」
「バイキングだよ。向こうのブースにあるスイーツ、好きなだけ盛ってきていいんだよ」
ほう、と顎に指を滑らせる厘。
モダンな店内に包まれる和装姿も。珍しい白髪も。鈍色の瞳も。周りが必ず一瞥する彼の姿は、もはやすべてが日常で。だからこそ、自分が一番傍にいると思っていた。
傍にいるのに。近いのに、近づけないのはどうしてだろう———。
「一緒に行くぞ」
「え?」
「教えてくれ。段取りがよく解らない。……それに、女子ばかりで落ち着かない。お前が居れば、———いや。なんでもない」
厘は前髪をいじりながら耳を赤らめる。不意を突かれた信頼に、心臓が貫かれる。自分以外、この店内の誰にも、厘が見えなくなればいいのに。と、岬は下唇を噛み締めた。
『意外と独占欲強いでしょ、岬ちゃん』
「っ……?!」
『あはは、図星~』
ブースへ向かう間、厘に聴こえないよう、囁くように笑う飛沙斗。岬は強くなる欲を覆い隠すように、スイーツを積み上げた。余白を埋めた。
「夕飯の分、腹残しておけよ」
「うっ……そうだった」
イチゴのショートケーキ。ザッハトルテ。フルーツタルト。エトセトラ。隙間なく埋め尽くされた皿に視線を落とし、岬は動揺と独占欲をいまさら恨んだ。
『あぁ~。久しぶりに味わえるのかぁ……嬉しいなぁ』
しかし中の声は、“後悔先に立たず” と落ちた岬に構わず、心のままに弾んでいた。