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学校から徒歩十五分。比較的新しい家が並ぶ住宅街のはずれ。暖かい光を灯すカフェへ、岬は飛沙斗とともに吸い込まれた。
「甘いというより、もはや甘ったるいな」
しかし連れ添う厘は、慣れない空間に顔をしかめる。そういえば、彼は知っているのだろうか。今日が “聖バレンタインデー” という甘い祭日であることを、知っているのだろうか。
疑問とともに岬の脳裏に浮かぶのは、放課後の風景。さながらボディガードのように校門前で待ち呆けていた厘は、何人かの女生徒に囲まれていた。
目立つ風貌ゆえに、噂になるのも頷ける。『どうやら花籠岬の知り合いらしい』と広まった頃は囲まれることなど皆無で、しかし、バレンタインという “口実” はようやく彼女たちの枷をはずしたらしい。
厘は格好いいもの……仕方がない。でも、厘は私の———。
「岬。席が空いたらしい」
「あっ……うん」
店員に先導される厘の後ろで、岬は首を横に振る。
『岬ちゃんはあげないの?』
しかし浮かんだ雑念と独占欲は、なかなか手強く振り払えない。飛沙斗の言葉にドキリとしたのは、きっとそのせいだ。
「それは……」
『せっかく傍にいるのに。あげたらいいのに』
「……———」
正面。席に着いた厘を見据え、岬は押し黙る。中にいる飛沙斗には、すでに見透かされているらしい。おそらく、校門前で沸々と込み上げた嫉妬心も。