厘のキスがいつもより、今までより色っぽいのが悪いのに——。
傍に居られるだけで十分。建前ではないはずなのに、時を経るごと、欲張りになっていく。詮索にも、危うく手を伸ばしたくなる。
「……厘」
「なんだ」
「最近、元気ない……?」
しかし稚拙で、こんな言葉でしか図れない。伸ばした手は赤子のものと見紛うほどに、稚拙だった。
「至って普通だ。……強いて言うなら、手足が多少冷えるくらいか」
低い体温が頭上にそっと乗せられる。同時に岬は自分の頼りなさを痛感し、肩を落とした。
汐織が憑いていたときと、全然変わっていないじゃない。……また何もできない。厘に頼るばかり。助けてもらうばかり。いつも私は、貰うばかりだ。
「ちゃんと、毛布被って寝てね。じゃあ……おやすみ。厘」
「ああ。おやすみ」
厘が現れたばかりの頃。「おやすみ」すら返してくれなかった厘から、こんなに溢れる想いを貰うことになるなんて。最初は夢にも思わなかった。
岬は、冷えたベッドに横たえながら体を縮める。厘が昼間に干していた布団を被ると、ふわり、日溜まりが香った。
「私……厘の居場所になれるかな。お母さん」
強くなりたい。彼の居場所になっていたい———。岬は天に馳せながら、薄い目蓋を静かに閉じた。